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Water leads itself to its vessel.

 

昨晩まで降り続いた瑞雨も勢いを弱め、打ち払われた雨雲に代わって
今日は朝から学園中に燃えるような陽射しが照りつけていた。
こうして中庭を歩いているだけでも、体の中から追い立てられるように
汗がシャツを濡らしていくのがわかる。

 

 

 

「まさにサラマンダーの如し、だね」

 

 

 

オープンキャンパス当日。
寮長であるリンドグレーンの指示によるものなのか、
学園のそこかしこでサラマンダー寮生の姿を見かける。

 

 

 

『来年度こそは最優秀寮の栄冠をサラマンダーに』
日の出の勢いがごとく彼等の様子は一様に溌剌としており、
その働きぶりに見学者を引き連れた理事長も満足気に頷いていた。

 

 

 

「さて・・・アルベリックはどうでるかな」

 

 

 

現最優秀寮の冠を戴く第二寮シルフィ―ド。
その長たる彼は意気盛んなサラマンダーを見てどう動くだろうか。
サラマンダーだけではない。
第四寮ノーム寮長であるトラヴェルサも、負けじと寮生達を引き連れて
躍動している。

 

 

 

「ふふ・・・先程はああ言ったが・・・
インペラトルの称号を勝ち得るのは容易ではなさそうだね、リシャール」

 

 

 

陽射しをやり過ごすように校舎の陰に入る。
太陽の支配が及ばぬ中庭にある仄暗い一角。
外壁にもたれて様子を伺う事にした。

 

 

 

そうしていくらか思索に耽っていると、目の前を忙しなく
通り過ぎていく生徒達の一人が足を止めた。
おそらくはノーム所属の下級生であるのだろう彼はジャスミンの鉢植えを抱えていたが、

こちらが第三寮アンディーンの寮長であると気付くと鉢植えを地面におろし丁寧に挨拶をした。

 

 

 

それに応えるように外壁から身を起こす。
その時、ふと足元に違和感を覚えた。
見下ろすと、日が当たらぬがゆえにまだ充分に地面が乾ききっておらず
幾分か湿った土が靴を汚していたのだ。

 

 

 

「気を付けるんだね、リシャール」

 

 

 

僕が不意に放った言葉に、目の前の後輩は目を丸くする。
その言葉の人物にも、真意にも、理解が及ばなかったのだろう。

 

 

 

「水は方円の器に随う・・・というからね」

 

 

 

彼の表情はますます怪訝を深める。
僕の口元からは、意地の悪い事だな、と思わず自嘲の笑みがこぼれた。

 

 

 

足を止めて悪かったね、と勤勉な下級生を送り出す。
はっとした表情の彼は慌てて「失礼します」と頭を下げて再び鉢植えを抱えた。
ノーム寮自慢のジャスミン。
上級生の指示でどこかのゲストルームにでも飾るのだろうか。

 

 

 

その姿が見えなくなり、僕は視線を足元へと戻す。

 

 

 

「その身を以て土を肥えさせる養分となるか」

 

 

 

目を少しずつ細めていく。
やがてこびりついた泥しか見えなくなった。

 

 

 

「それとも、その気性を以って凍土と化すか」

 

 

 

口角を衝くように口の端が上がる。
僕はどちらに転ぶのを願っているだろうか。

 

 

 

「君は、彼にとってどちらになるだろうね、リシャール」

 

 

 

校舎に落ちる影が広がる。
先程まで曇り一つなかった青空に幾分か雲が出てきた。

 

 

 

それでもまだ陽が落ちるまでには時間がかかりそうだ。
靴についた泥を目もくれずに払い落として、僕は仕事に戻るべく歩き出した。

18:00 (13ago)7年生 ローレンツ・ヴィンフリート・レマルク アンディーン寮長・監督生 comments(0)
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