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煽情

 

静けさを取り戻した校舎に思い出した様に吹く風が深緑を揺らす音だけが響く。

それは寂しさを嘆いている声にも聞こえ、時が殊更ゆっくりと刻まれている事を再認識させる。

この時の矢は逆行することはなく必ず決まった順序で万事は成される。

 

オープンキャンパスを終え短い夏休みを自邸で過ごす生徒も少なからずいるようだ。

うだる様な暑さの寮から逃げるように訪れた中央棟は人の気配こそするものの、全く活動的ではない。


ふとした感情に突き動かされ古い石畳の階段を登る。


単調に続く足音が遠く聞こえる。

夏という季節によるものだろうか。

 


豪奢な封筒と赤褐色の封蝋。

一度読めば読み返す内容でもない結婚式の招待状は寮に戻ってすぐに引き出しへと押し入れた。

これがセヴェリがわざわざ学園まで届け、伝えたかった事…


なるほど…

あいつがしそうなことだ。

 


太陽に雲がかかったのか幾ばくか陰る廊下。

また雨が降るのか。

 

ただの雨ならいい。

それ以上となると収集がつかなそうだから。

 

暑い・面倒くさい という理由で非協力的になる監督生はバレリオくらいだ。

そんな態度を晒すくらいならサラマンダー寮でじっとしていてくれる方がずっといい。

寮や寮長の評価が無闇に下がらずに済む。

 

しかしセドリックは違うようだっだ。

彼の功績は先日のオープンキャンパスでも例外なく目立ち、リンドグレーン先輩は鼻高々だったはず。

バレリオが中央棟に姿を現さなかったことなど霞んでしまう程度には。

 

寮長同士の小競り合いが最小限に済んでいるのも彼の成すところが大きい。

後輩からは慕われ些細な変化を見逃さない。

今後のサラマンダー寮の為には必要だ。

 


最後の一段を上がったところで窓から風が、水と土が混ざった匂いを運んできた。

 

とうとう降ってくる。

もしそうなったら止むまでここに居よう。

 

錆びたドアノブを回すと室内の湿気でシャツが体に纏わりついた。

黒いピアノが無人の音楽室で無機質に佇んでいるのを見て、平凡だと感じる自分はまた意識の外にいる。


右側を一人分空けて鍵盤に向かう。

 


ここで、君にしか出来ない事があるんだ。

18:00 (13ago)5年生 トゥーレ・エドヴァルド・フォルスブロム サラマンダー寮生 comments(0)
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